「夜中に目が覚めるから睡眠薬」― その判断、待ってください
夜中に目が覚める。 だから睡眠薬を飲む。
ちょっと待ってください。
睡眠薬は不眠症に対する有効な治療手段のひとつです。
夜中に目が覚めるという症状は、原因がひとつとは限りません。
背景に別の疾患が隠れている場合、その原因へのアプローチが症状改善の近道に
なることがあります。
① 「夜中に目が覚める」― その覚醒、どんな種類?
睡眠医学の国際基準であるAASM(米国睡眠医学会)では、睡眠中の覚醒を持続時間で
2つに分類しています。
・覚醒反応(マイクロ覚醒) 持続時間3~15秒
脳波上の変化で本人は気づかないことが多い
・完全覚醒 持続時間15秒以上
本人が気づく目覚め
「夜中に何度も起きた気がする」という訴えの中には、実際には本人が気づかない
マイクロ覚醒(Arousal)が繰り返されているケースも含まれます。
② ここからが本題 ⇒ 覚醒反応には「4つの分類」がある
AASMでは、覚醒反応をその原因によって4つに分類しています。
・自発覚醒:原因不明または内因性
・呼吸関連覚醒:無呼吸や低呼吸の終末に生じる(呼吸イベント終了時)
・周期性四肢運動関連覚醒:周期性四肢運動障害に伴う覚醒
・検査者起因覚醒:検査中の外部刺激
このように、 同じ「夜中に目が覚める」という症状でも、背景にある原因はまったく
異なります。
③ 覚醒反応が増えると日中にどんな影響が出るか
覚醒反応の増加は、日中の機能に影響を与えることが複数の研究で示されています。
代表的な研究を紹介します。
睡眠断片化と日中機能障害に関する研究
断片化した睡眠は回復性が低く、日中の眠気・気分・注意機能に悪影響を与えますと報告されています。
Stepanski EJ. "The effect of sleep fragmentation on daytime function." Sleep. 2002;25(3):268-276.
覚醒反応頻度と疲労感に関する研究
OSA未治療患者73名を対象とした本研究では、自発覚醒指数が情動的疲労と独立して
関連し(r = 0.378, p = .025)、身体的疲労とも有意な相関が確認されています。
Yue HJ et al. "Arousal frequency is associated with increased fatigue in obstructive sleep apnea." Sleep Breath. 2009 Nov;13(4):331-9.
自発覚醒と軽度認知機能障害(MCI)のリスクに関する研究
NREM期の自発覚醒が1回/時間増えるごとに、軽度認知障害(MCI)のオッズ比が1.12倍上昇することも報告されています(95% CI: 1.01–1.24)。
Tsai CY et al. "Associations among sleep-disordered breathing, arousal response, and risk of mild cognitive impairment." J Clin Sleep Med. 2022;18(4):1003-1012.
④ 中途覚醒をきたす主な疾患・状態
「夜中に目が覚める」という症状の背景には、さまざまな疾患・状態が関与しています。
A. 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)⇒ 呼吸関連覚醒
OSAでは、睡眠中に上気道が閉塞することで無呼吸・低呼吸が繰り返されます。
無呼吸・低呼吸が起きると、血中酸素が低下し二酸化炭素が蓄積します。
これが呼吸中枢への強い刺激となり、呼吸出力が上昇します。
そして呼吸出力がある閾値(=覚醒閾値)を超えた瞬間に覚醒反応が起き、無呼吸が
終息します。
この呼吸関連覚醒が一晩に何十回・何百回と繰り返されることで、「何度も目が覚める」という症状として現れます。
本人が無呼吸に気づいていないケースも多く、「ただの不眠」と思い込んでいる方は
少なくありません。
B. 周期性四肢運動障害(PLMD)⇒ 四肢運動関連覚醒
睡眠中に脚(まれに腕)が20〜40秒間隔で周期的にぴくつく疾患です。
脊髄・脳幹の過興奮により四肢運動関連覚醒が繰り返されます。
本人は脚が動いていることに気づかず、「なんとなく眠りが浅い」「夜中に目が覚める」と訴えることが多く、見逃されやすい疾患です。
※OSAとPLMDの合併に注意
OSAとPLMDは合併することが少なくありません。
この場合、CPAPでOSAをコントロールしていても、PLMDが未治療であれば
中途覚醒は改善しません。両疾患を評価・治療することが重要です。
C. 慢性不眠障害 ⇒ 自発覚醒
ストレス・不安・過緊張などにより、脳が慢性的な過覚醒(hyperarousal)状態になっている慢性不眠障害です。
睡眠中も脳の活動レベルが下がりきらないため、呼吸・四肢運動・環境など明確な
外的原因がないにもかかわらず覚醒が繰り返されます。
終夜ポリグラフ検査では自発覚醒として記録されます。
治療の第一選択は**CBT-I(不眠に対する認知行動療法)**です。
睡眠薬は補助的な位置づけであり、CBT-Iと組み合わせることが推奨されています。
D. 見落としがちな環境要因
上記の疾患がない場合でも、睡眠環境が中途覚醒の原因になっているケースは
意外と多いです。
自然の光であっても光刺激は覚醒を促します。朝の外光が入りやすい部屋では、
カーテンの遮光性を確認することが重要です。
騒音(交通音・パートナーのいびきなど)は覚醒閾値を下げ、マイクロ覚醒を誘発します。
室温・湿度が適切でない場合、深部体温の低下が妨げられ睡眠の質が低下します。
スマホ・デバイスの光・通知・情報刺激は、就寝後も脳を覚醒状態に保ちます。
環境要因はA・B・Cのどの疾患にも横断的に重なって覚醒を悪化させることがあります。まず環境を整えることは、すべての中途覚醒に共通した基本対策です。
⑤ 一部の睡眠薬・鎮静薬が閉塞性睡眠時無呼吸に影響する可能性
睡眠薬は不眠症に対する有効な治療薬です。
ただし一部の睡眠薬・鎮静薬では、上気道筋の弛緩や覚醒閾値への影響を通じて、OSAに注意が必要な場合があります。
OSAが未診断・未治療の状態でこれらの薬剤を使用すると、以下のような経過をたどる可能性があります。
1. 上気道筋が弛緩することで無呼吸が悪化
2. 覚醒閾値が上昇することで、本来であれば無呼吸を終息させるはずの呼吸関連覚醒が抑制
その結果、低酸素状態が延長されることになります。
睡眠薬で「夜中に目が覚めなくなった=よく眠れるようになった」とは限りません。
覚醒反応が抑制されているだけで、無呼吸自体は続いている可能性があります。
⑥ まとめ
夜中に目が覚めるという症状は、原因によって覚醒の種類がまったく異なります。
背景にOSA・PLMD・慢性不眠障害・環境要因など、複数の疾患・状態が関与している可能性があります。そして覚醒反応の増加は、日中の疲労・認知機能・気分に影響します。
睡眠薬は不眠症に対する有効な治療手段ですが、一部の睡眠薬・鎮静薬では、OSAが未診断・未治療の状態で無呼吸を悪化させる可能性があります。症状が続く場合は、背景の評価も含めて睡眠専門医への相談が一つの選択肢です。
■ 参考コラム
・「ヒトは一日何時間眠ればよいのか」
・「夢はなぜ見るのか? 睡眠中に起こる脳の働き」
・「睡眠の悩みはどの科を受診する?睡眠専門医の探し方」
・「昼寝は何分がベスト? 研究データから見る最適な昼寝時間」
・「寝だめはできるのか? ― 研究データから見る寝だめの限界」
・「研究データから見る寝不足とパフォーマンス低下」
・「アイマスクは睡眠の質を本当に改善するのか? ― 科学的エビデンスから考える、光遮断の重要性」
■ 参考書籍
・「イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める!睡眠のしくみ (単行本)」
・「不眠睡眠障害治療大全 (電子書籍)」
・「不眠症に対する認知行動療法マニュアル(単行本)」
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医