寝だめはできるのか? ― 研究データから見る寝だめの限界
平日の寝不足を週末にまとめて返す。
多くの人がやっていることですが、研究を並べると結論はかなり明快です。
寝だめで少し楽になっても、完全回復はしません。
眠気や疲労感が少し戻っても、注意力、作業能力、代謝への悪影響は残ります。
このコラムでは、寝だめに関する代表的な論文を紹介します。
■ 研究結果が示す「寝だめの限界」
① Pejovic et al., 2013
健康な若年男女30人を対象に、平日の軽い睡眠不足のあと、回復睡眠でどこまで元に戻るのかを調べた研究です。
研究では、4晩の8時間睡眠のあと、6晩は6時間睡眠に制限し、その後3晩は10時間睡眠をとらせました。
その結果、回復睡眠によって眠気や疲労感、炎症マーカー、コルチゾールは改善しました。しかし、日中のパフォーマンス低下は十分には回復しませんでした。
つまり、本人が「少し戻った」と感じても、脳の働きは元通りではないということです。
② Smith et al., 2021
健康な成人15人を対象に、平日に睡眠を削って週末に寝直す生活で、認知機能がどう変化するのかを調べた研究です。
平日5時間、週末8時間の睡眠を6週間続けた結果、空間認知と持続的注意は低下し、週末2晩の回復睡眠では戻りませんでした。
平日に削って週末で返しても、脳の機能低下は打ち消せないということです。
③ Depner et al., 2019
健康な若年成人を対象に、平日の睡眠不足を週末の寝だめでどこまで補えるのかを調べた研究です。
この研究では、十分睡眠群、睡眠制限群、平日睡眠制限+週末回復睡眠群を比較しました。
その結果、週末に長く眠った群は一時的には持ち直しましたが、その後また睡眠不足に戻ると、体内時計の遅れ、夕食後の摂取エネルギー増加、体重増加、インスリン感受性低下がみられました。
つまり、週末の寝だめでは、繰り返す睡眠不足による代謝の乱れは防げなかったということです。
④ Leger et al., 2020
18~75歳の成人約12000人を対象に、平日の睡眠不足を昼寝や週末の寝だめでどこまで補えるのかを調べた研究です。
その結果、週末の寝だめで補えていたのは18.2%、昼寝で補えていたのは7.4%で、75.8%は十分に補えていませんでした。
つまり、寝不足は、週末にまとめて寝れば簡単に帳消しにできるものではないということです。
■ まとめ
過去の研究結果からこのテーマに関して考察はありません。
寝だめで平日の寝不足を帳消しにすることは、基本的にできません。
つまり、週末に長く寝ても、平日の寝不足は完全には消えません。
眠気が少し軽くなっても、注意力、作業能力、代謝は元通りには戻りません。
規則正しく、必要な睡眠時間を日々きちんと確保するしかありません。
■ 参考コラム
・「昼寝は何分がベスト? 研究データから見る最適な昼寝時間」
・「研究データから見る寝不足とパフォーマンス低下」
・「ヒトは一日何時間眠ればよいのか」
・「なぜ人は眠たくなるのか? ― 睡眠を引き起こす2つの仕組み」
・「寝る前にスマホを見ると眠れなくなるのはなぜ? ― 光と脳の"覚醒スイッチ"の仕組み」
・「カフェインは何時間前までOK? 睡眠を壊さないための正しい知識」
・「冬眠とは? 冬を生き抜くための生存戦略」
■ 参考書籍
・「イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める!睡眠のしくみ (単行本)」
・「睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (電子書籍)」
・「今さら聞けない 睡眠の超基本 (今さら聞けない超基本シリーズ) 電子書籍版」
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医