ヒトは一日何時間眠ればよいのか

◆ 「何時間寝ればいいのか?」という疑問

診療でもよく聞かれる質問ですが、
必要な睡眠時間は 年齢とともに自然に変化します。

人によって最適な睡眠時間が違うのは、
身体の睡眠需要が加齢とともに変わっていくためです。

その変化を科学的に示した代表的な研究が、
Ohayonらによる大規模メタ解析(Sleep 2004) です。
この研究では脳波を用いて厳密に夜間の睡眠時間を調べています。

◆ 睡眠時間の“加齢による変化”は科学的に証明されている

人は加齢とともに睡眠が変化します。
先ほど紹介したOhayonらによる大規模メタ解析で示されていることは。

年齢が上がるほど:

・総睡眠時間は短くなる
・深い睡眠(SWS)は特に減少する
・入眠潜時(寝つくまでの時間)は延びる
・中途覚醒(WASO)は増えやすい

これは “悪い変化”ではなく、生理的な変化 です。

つまり、

「若いころは7時間で足りたのに、最近は6時間半で自然に目が覚める」
→ これは異常ではなく、正常な変化です。

◆ 年齢別にみる「現実的な睡眠の傾向」

Ohayonらメタ解析のデータから、年齢による傾向は次のように整理できます。

・中高生:発達段階のため8〜10時間は自然に必要
・成人: 約7時間前後で十分なケースが多い
・高齢者:6時間前後で自然に覚醒する人が増える

これは「推奨される睡眠時間」ではなく、
実際に身体が必要としている睡眠時間は年齢で変化するという事実 です。

8時間寝ないといけないと思い込んで、眠くないのに布団に入ると不眠症の引き金にもなりかねません。

◆ 世界的に見ても、日本人は睡眠が短い

日本の成人の平均睡眠時間は 世界最短レベル です。

「The Economist(2018)」の国際比較データでは、
主要国の中で 日本は最も睡眠が短い国の一つ とされています。

・欧米:7時間〜7時間30分
・日本:6時間前後

つまり、

加齢による短縮 + 日本人の元々の短さ
という二重の要因が重なっています。

◆ 睡眠負債が日本に与える影響(RAND Europe解析)

RAND Europe(2016)が発表した報告書「Why Sleep Matters: The Economic Costs of Insufficient Sleep」では、睡眠不足による経済損失は次のとおりです。

・日本:1380億ドル(GDPの2.92%)
・アメリカ:4110億ドル(GDPの2.28%)
・イギリス:500億ドル(GDPの1.86%)

GDP比で見ると日本が最も大きく、
「日本人の睡眠の短さ」が国家レベルの課題 であることが分かります。
またこの報告書では、睡眠不足は生産性の低下だけでなく、死亡リスクの増加にも関連していると指摘されています。

経済的観点からだけでなく、子供の成長のためにも大人が正しい睡眠時間の認識をもつ必要があります。

◆ 睡眠は“長さ”だけでは測れない

睡眠の本質は「どれだけ寝たか」ではなく、
必要なプロセスが完了しているか です。

睡眠中には、

・深い睡眠
 主に大脳皮質の休息、脳疲労の回復、成長ホルモンの分泌などに関与します。

・REM睡眠:記憶整理
 記憶の整理・固定、感情の調整、夢を見ることによるストレス解消などに関与
 するとされています。

・ホルモンや免疫の調整
 睡眠中にはメラトニンやコルチゾールなどのホルモンバランスが調整され、免疫
 システムの機能維持・強化も行われます。

このように睡眠中には多彩な作業が進んでいます。

途中で何度も目が覚める要因も多彩ですが、
睡眠時無呼吸症候群はその代表的な疾患 です。

◆ 医師としてのまとめ

睡眠時間は加齢とともに自然に変化します。
短くなっていくのは身体の生理的な適応です。

睡眠とは単なる休息ではなく、
脳と身体を守るために人類が進化の過程で獲得した
“生存戦略” といえます。

【監修】
星野哲朗(日本睡眠学会 指導医・総合専門医)


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