なぜ仰向けでいびきが悪化するのか? ― 寝る向きで変わる気道のしくみ
「仰向けで寝るとひどいいびきをかく」
「家族に横向いて寝てと言われる」
そんな経験はありませんか?
実はこれ、偶然ではありません。
体の構造上、仰向けでは気道が狭くなりやすい理由があります。
これは医学的にも簡単に説明できる現象です。
そして、横向きで眠る=確立された治療選択肢です。
■ 重力と舌の位置、そしてREM睡眠
私たちの舌は、筋肉のかたまりです。起きているときは筋活動によって前方に
保たれていますが、睡眠中は筋トーヌスが低下します。
この状態で仰向けになると、舌根が後方へ落ち込み、咽頭のスペースが狭くなります。
これが、いびきや無呼吸の直接的な原因になります。
さらに重要なのが、REM睡眠中の筋トーヌス低下です。
REM睡眠中は、夢を見るだけでなく骨格筋の活動が著しく抑制されます(筋弛緩)。
このため、仰臥位でREM睡眠に入ったとき、上気道の筋トーヌスは最も低い状態と
なり、OSAが最も悪化しやすいタイミングとも考えられています。
実際に、無呼吸低呼吸指数(AHI)は以下の順序で高くなることが報告されています。
AHI-REM仰臥位 > AHI-NREM仰臥位 > AHI-REM側臥位 > AHI-NREM側臥位
Oksenberg A et al. "REM-related obstructive sleep apnea: the effect of body position." J Clin Sleep Med. 2010;6(4):343–348.
つまり「仰向け × REM睡眠」の組み合わせが、OSAを最も悪化させる条件といえます。
■ 上気道は "潰れやすい管"(collapsible tube)でできている
上気道(咽頭)は骨で支えられておらず、筋肉と軟部組織でできた柔らかい管(collapsible tube)です。工学的には「内腔の圧力が閾値を下回ると虚脱する」
チューブ構造であり、もともと潰れやすい構造をしています。
ここに
・重力(仰向けによる軟部組織の落ち込み)
・睡眠による筋トーヌス低下
・REM期のさらなる筋弛緩
が重なることで、気道はさらに閉塞しやすくなります。
■ 横向きで改善する理由
横向き(側臥位)になると、舌や軟部組織が気道に直接落ち込みにくくなるため、
上気道の開存性が保たれやすくなります。その結果、いびきの軽減・無呼吸の減少
という変化が起こります。
自然に横向きで寝ている方、パートナーから「横向いて」と言われる方
その体は、すでに正しい反応をしているといえます。
■ 体位依存性OSA(Positional OSA)と体位療法
仰向けで悪化し、横向きで改善するタイプの無呼吸を体位依存性OSA(positional OSA, POSA)と呼びます。
臨床的には「仰向けでの無呼吸指数が横向きの2倍以上」という定義が用いられることが多く、軽症〜中等症OSAでよくみられるタイプです。
体位療法 ― シンプルだが確立された治療選択肢
「体位療法(positional therapy, PT)」とは、横向きで寝る時間を増やすためのアプローチ全般を指します。特別な機械も薬も使わない、最もシンプルな治療のひとつです。
根治治療ではありませんが、AASM(米国睡眠医学会)の公式誌 Journal of Clinical Sleep Medicine に掲載された研究では、体位療法を受けた成人OSA患者40名で成功率68%(27/40名)、AHIの中央値が14.5から5.9へ有意に低下(p<0.001)しています。
de Vries GE et al. "Usage of positional therapy in adults with obstructive sleep apnea." J Clin Sleep Med. 2015;11(2):131–137.
口腔内装置(OA)との相性
体位依存性OSAの患者は、口腔内装置(マウスピース)の効果が出やすい傾向がある
ことが、複数の研究から示されています。
630名を対象とした大規模前向き研究(Marklund M et al., Chest 2004)では、男性において仰臥位依存性OSAは治療成功の独立した予測因子であり、オッズ比6.0(p<0.001)と報告されています。
Marklund M, Stenlund H, Franklin KA. "Mandibular advancement devices in 630 men and women with obstructive sleep apnea and snoring: tolerability and predictors of treatment success." Chest. 2004;125(4):1270–1278.
つまり、体位依存性OSAの男性は、そうでない男性と比べてOAによる治療が成功しやすいことが統計的に確認されています。
OA + 体位療法の組み合わせ
欧米では「OA+体位療法の併用」が推奨されることがあります。
OA使用中に残存する仰臥位依存性OSA患者20名を対象としたRCTでは、治療成功率は以下の通りでした。
Dieltjens M et al. "A promising concept of combination therapy for positional obstructive sleep apnea." Sleep Breath. 2016;20(2):633–641.
・OA単独:45%
・体位療法(SPT)単独:55%
・OA+体位療法の併用:95%(いずれも vs 併用群 p<0.01)
体位依存性OSAの方にとって、この組み合わせは検討に値する選択肢です。
注意点:整形外科的な問題がある場合
一定の姿勢を長時間維持することは、頸椎・腰椎・肩関節などに問題を抱える方では
症状を悪化させる可能性があります。体位療法を導入する際は、整形外科的な既往が
ある場合は担当医に相談のうえ行うことを推奨します。
■ 枕の選び方 ― 横向き寝をサポートするために
様々なメーカーが「横向き寝対応」「いびき対策」をうたう枕を販売しています。
マーケティング色が強い商品も多いなかで、構造的に理にかなっているタイプとして
星野耳鼻咽喉科 睡眠呼吸センターでは以下の3種類の枕を例に挙げています。
①LOFTY ボディーピロー いびき
抱き枕+背中側の“ストッパーというコンセプトで側臥位姿勢を“サポートする” 枕です。 患者さんへ説明するとき、「U字枕」 と呼んでいます。
商品詳細説明「LOFTY ボディーピロー いびき」
②BRAIN SLEEP ピロー スタンダード
枕の左右(両サイド)に行くほど弾力が高まる構造のため、横向きで寝やすい
設計になっています。
商品詳細説明「BRAIN SLEEP ピロー スタンダード」
③アパホテル 枕 PRIDEFIT
枕の左右(両サイド)が中央部分より高くなっているため横向き姿勢で寝やすい
設計になっています。
商品詳細説明「アパホテル 枕 PRIDEFIT」
枕は使ってみないと本当に合うか分かりません。
迷われる方のために、私が個人的におすすめできるものをいくつか掲載しています。必要に応じて参考にしてください。
加えて、枕単体でOSAを治療する効果が証明されているわけではありません。
あくまで「横向きで寝やすくするサポート」として位置づけてください。
■ まとめ
仰向けでいびきが悪化するのは、
・舌根の後方移動
・上気道の「潰れやすい構造(collapsible tube)」
・重力
・睡眠中の筋トーヌス低下(特にREM睡眠)
が重なるために起こる、生理学的に説明可能な現象です。
この傾向が強いタイプは「体位依存性OSA」と呼ばれ、軽症〜中等症のOSAで多く
みられます。体位療法はシンプルながらエビデンスのある治療選択肢であり、
口腔内装置と組み合わせることで、さらに効果が高まる可能性があります。
ただし、いずれも補助的・対症的なアプローチであり、症状がある場合は原因の評価
が重要です。
※口腔内装置も体位療法も根治治療ではありません。
■ 参考コラム
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その① 定義・疫学」
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その② 病態・リスク・合併症」
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その③ 治療 “あなたの無呼吸は、どのタイプですか?」
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医