閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その① 定義・疫学
日頃、皆さんがよく耳にする「睡眠時無呼吸症候群」。
正確には、睡眠障害国際国際分類 ICSD-3(International Classification of Sleep Disorders, Third Edition) における
“睡眠関連呼吸障害(Sleep-related Breathing Disorders)” に含まれる疾患群です。
睡眠関連呼吸障害には、以下のように複数のタイプがあり、原因や病態が異なります。
- 閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea)
- 中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea)
- 睡眠関連低換気症(Sleep-related hypoventilation)
- 睡眠関連低酸素血症(Sleep-related hypoxemia)
これらはまとめて「睡眠時無呼吸症候群」と呼ばれることもありますが、
医学的には明確に分類されています。
本コラムでは、この中でも 患者数が圧倒的に多く、日常診療で最も遭遇する
「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」 について解説します。
閉塞性睡眠時無呼吸は、
睡眠中に上気道が繰り返しつぶれ、呼吸気流が弱まる(低呼吸)
あるいは完全に止まる(無呼吸)状態を反復する病気です。
その結果として起こる中心的な変化は以下の3つです。
- 間欠的低酸素(酸素が下がったり戻ったりを繰り返す)
- 二酸化炭素の蓄積(高CO₂血症)
- 睡眠の分断(覚醒反応を繰り返す)
これらは、
- 日中の強い眠気
- 注意力低下
- 仕事や運転時の事故リスク増加
といった日常生活レベルの問題に直結するだけでなく、
- 高血圧
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 心不全
- 認知機能低下
などの 心血管系疾患の危険因子 となることが、多くの研究で示されています。
■ 日本における患者数の推計
Lancet の大規模解析(Benjafield et al., 2019)によれば、日本では次のように推計されています。
-
AHI 5(軽症者以上): 約2,200万人
- AHI 15(中等症以上): 約900万人
睡眠障害国際分類(ICSD-3)では80種類以上の睡眠障害が定義されています。
閉塞性睡眠時無呼吸はその1疾患にすぎませんが、
睡眠障害の中でもっとも広く知られている疾患 といえます。
その理由はこの圧倒的な潜在患者の多さです。
そして、未だ多くの方が適切な治療を受けていないというのが現状です。
■ なぜ日本人に閉塞性睡眠時無呼吸が多いのか
特徴的なのは、肥満だけでは説明がつかないという点です。
東アジア人は、
- 顎が小さい(下顎後退)
- 気道が狭くなりやすい構造
が欧米人より多く、
標準体重〜軽度肥満でも閉塞性睡眠時無呼吸を発症しやすいことが分かっています。
つまり日本では、
“痩せ型の閉塞性睡眠時無呼吸” が一定割合で存在する
という事情があります。
■ 閉塞性睡眠時無呼吸が問題になる理由
閉塞性睡眠時無呼吸では、無呼吸やいびきの終わりに 「覚醒反応」 が起こります。本人は気づかなくても、これが 数百回 起こることすらあります。
これは無呼吸やいびきの際に生じる低酸素状態から体を守る生体防御反応ですが、
結果として、
- 深い睡眠が削られる
- 睡眠構造が崩れる
- 交感神経が過剰に働く
- 血圧が変動しやすくなる
- 血管内皮ストレスが蓄積する
こうした “生理学的負荷” が、心血管疾患の発症リスクを高めていきます。
閉塞性睡眠時無呼吸は決して「いびきの病気」ではなく、
全身疾患の入り口となりうる睡眠障害 と言えます。
■ 心血管疾患との強い関連(非常に重要)
閉塞性睡眠時無呼吸は、心臓・血管に強い負荷をかけ続けるため、
以下の疾患と深い関連があることが知られています。
- 高血圧の30〜50%に閉塞性睡眠時無呼吸が合併
- 心不全の約40%
- 心房細動の約50%
- 難治性高血圧では約80%が閉塞性睡眠時無呼吸を合併
特に心房細動では、
閉塞性睡眠時無呼吸を治療しないと 再発率が2倍以上 増えると報告されています。
循環器領域では、
「見過ごされた閉塞性睡眠時無呼吸」 が病状を悪化させる代表例です。
■ 痩せていても睡眠時無呼吸になる理由
「太っていないから大丈夫」という誤解は大きな落とし穴です。
- 顎が小さい
- 首の太さ
- 扁桃肥大
- 鼻閉による口呼吸
これらは体脂肪とは関係なく気道を狭くする要因です。
痩せ型閉塞性睡眠時無呼吸は日本人に非常に多く、
「体型だけで判断できない」代表的な疾患 です。
■ 眠気以外の症状に現れる“非眠気型”閉塞性睡眠時無呼吸
閉塞性睡眠時無呼吸=眠い、と思われがちですが、
眠気が全く出ないタイプ も多く存在します。
その代わり別の症状として現れます。
- 起床時の頭痛
- 集中力低下
- 夕方の疲労感
- イライラ・気分不安定
- 夜間頻尿
- 性機能低下
- 朝だけ血圧が高い
- 日中の倦怠感
これは 交感神経の過覚醒で眠気が“隠れる”ため です。
患者本人が眠気を自覚しないことで、
発見が遅れるケースが多い のが特徴です。
■ 医師からのコメント
閉塞性睡眠時無呼吸は「眠たくなる病気」と思われがちですが、
これは 半分正解で半分誤解 です。
強い眠気が出る人もいる一方で、
眠気が出ない“非眠気型”の患者さんも多い という臨床的特徴があります。
夜間の交感神経の過活動により、身体が“警戒モード”のまま朝を迎えると、
眠気ではなく、
- 頭痛
- 集中力低下
- イライラ
- 朝の血圧上昇
など、別の症状が前面に出てきます。
眠気の有無に関わらず、
閉塞性睡眠時無呼吸は 全身に静かに負荷をかけ続ける疾患
であることを理解していただければと思います。