閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その② 病態・リスク・合併症
睡眠時無呼吸の本質は、
「睡眠中の気道狭窄が、静かに全身へ負荷をかけ続ける病気」
という点にあります。
睡眠時無呼吸は“いびきの病気”ではなく、
呼吸・循環・代謝・脳機能に影響する全身疾患です。
■ 睡眠時無呼吸の病態:身体で何が起きているのか?
OSAでは、上気道が閉塞し呼吸が止まり、酸素レベルが低下する。
その直後に覚醒が起こり、気道が回復する。
このサイクルが一晩に何十回、時に何百回も発生します。
これが全身への複合的な負荷になります。
① 間欠的低酸素(酸素レベルの上下動)
無呼吸により酸素が低下し、
呼吸再開で急激に回復します。
この 酸素の揺れ は、
- 酸化ストレス
- 炎症
- 血管内皮障害
を介して、心臓・血管・脳へダメージを与えます。
② 交感神経の過活動
呼吸停止は身体にとって“危険サイン”で、
夜間を通じて交感神経が過剰興奮します。
- 夜間高血圧
- 心拍数上昇
- 身体が休めない状態
こうした変化が 高血圧・心臓・脳血管障害の起点 になります。
③ 睡眠の連続性の破壊
覚醒反応が積み重なり、
深い睡眠が消え、睡眠構造が崩れる。
- 熟眠感の欠如
- 朝のだるさ
- 日中の眠気
- 判断力・集中力低下
「寝ているのに回復しない」状態となります。
■ 4つの病態生理学的特性(エンドタイプ)
閉塞性睡眠時無呼吸は次の 解剖学的要因(構造上の問題)と非解剖学的要因(上気道開大筋の反応性低下、呼吸制御の不安定性、覚醒しやすさ)の組み合わせ で発症します。
① 解剖学的上気道の狭小化
- 小顎
- 扁桃肥大(+アデノイド肥大)
- 肥満
- 体液移動(Fluid shift:就寝で下肢の体液が上半身に戻り、鼻・咽頭がむくむ)
耳鼻咽喉科がもっとも評価しやすい領域です。
② 上気道開大筋の反応性低下
気道が狭くなりかけた時、本来働くべき開大筋(特に舌筋)が十分に反応しない状態。
加齢とともに女性で閉塞性睡眠時無呼吸が増える主因の一つは、
女性ホルモン(特にプロゲステロン)低下による開大筋反応性の低下
と考えられています。
③ 呼吸制御の不安定性
呼吸のコントロールが揺れやすい体質。
→ 低酸素・高二酸化炭素血症
→ 換気ドライブ亢進
→ CO₂低下
→ 呼吸出力低下(オトガイ舌筋・横隔膜への入力低下)
→ 無呼吸・低呼吸の増加
という 振り子のような不安定な呼吸 が起こりやすくなります。
④ 覚醒しやすさ(低覚醒閾値)
覚醒反応(arousal)は、
音・光・痛みといった外的刺激だけでなく、
- 無呼吸・低呼吸による低酸素
- 低酸素や高二酸化炭素血症による呼吸努力増大
といった内的刺激でも生じます。
無呼吸・低呼吸が続けば、
低酸素・高CO₂が進行するため、覚醒反応は言わば 生体防御反応 です。
一方で 覚醒しやすい(=覚醒閾値が低い)人 では、
- 軽度の呼吸トラブルでも覚醒が起こりやすく
- 覚醒に伴う一過性の過換気 → CO₂急低下
- 呼吸の不安定化
→ 次の呼吸トラブル(無呼吸・低呼吸)の引き金
という 悪循環(増悪スパイラル) を形成します。
つまり覚醒反応は、
「呼吸トラブルを終わらせる生体防御反応」 であると同時に、
「次の呼吸トラブルを誘発する可能性」 という二面性 を持っています。
■ QOL(Quality of life)への影響
- 日中の眠気
- 注意力低下
- 作業効率低下
- 交通事故・労働災害リスク増大
“毎日なんとなくしんどい”の背景にOSAが潜むことは珍しくありません。
■ 全身合併症(科学的に確立したリスク)
- 高血圧
- 心筋梗塞・狭心症
- 脳卒中
- 心不全
- 心房細動
- 2型糖尿病
- CKD(慢性腎臓病)
- 認知機能低下
- 抑うつ・不安
■ まとめ
睡眠時無呼吸は
「夜間の呼吸障害が全身に負荷をかけ続ける病気」 です。
そして、
解剖学的要因と3つの非解剖学的要因の組み合わせ
で生じる多因子疾患です。
どの因子の影響が強いのかを見極めることが、
治療方針の最適化の鍵 となります。