肥満治療の現況:肥満・肥満症・メタボの違いと最新の治療選択肢

睡眠と関連が強い肥満。みなさんの関心も高いと思います。
肥満治療そのものを専門としているわけではありませんが、睡眠専門医として理解している内容を、今回は整理して共有したいと思います。

■ まず用語の整理

肥満に関連する言葉には、「肥満」「肥満症」「メタボ(メタボリックシンドローム)」があります。似ているようで、実は目的が異なります。

結論から述べると、

肥満
 BMIで定義される体格の状態

肥満症
 肥満に合併症や内臓脂肪蓄積が加わり、医学的治療の対象となる病態

メタボ
 腹囲で示される内臓脂肪蓄積に、血圧・血糖・脂質の複数異常が重なった、動脈硬化リスクの高い状態を拾うための診断枠

という整理になります。 

・肥満とは

BMI(体重[kg]/身長[m]²)が25以上を肥満とします。
BMI35以上は高度肥満とされます。 

・肥満症とは

いわば**“治療対象としての肥満”**で、病名になります。

BMI25以上の「肥満」のうち、

・肥満に関連する健康障害(合併症)が1つ以上ある
・または内臓脂肪の蓄積があり、将来の健康障害が起こりやすい

と判断される場合、医学的に減量治療が必要な状態とされます。

代表的な健康障害としては、

①耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
②脂質異常症
③高血圧
④高尿酸血症・痛風
⑤冠動脈疾患
⑥脳梗塞・一過性脳虚血発作
⑦非アルコール性脂肪性肝疾患
⑧月経異常・不妊
閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
⑩運動器疾患(変形性関節症、変形性脊椎症など)
⑪肥満関連腎臓病

などがあります。 

BMI35以上の肥満症は、高度肥満症として区別されます。

・メタボとは

メタボリックシンドロームは、

腹囲(男性85cm以上/女性90cm以上)
かつ
以下3項目のうち2項目以上

・脂質(中性脂肪150以上 または HDLコレステロール40未満)
・血圧(収縮期130以上 または 拡張期85以上)
・血糖(空腹時血糖110以上)

で診断されます。 

このように言葉が増えるほど、議論が“用語先行”になりやすくなります。
まずは、何を困りごととして、何を改善目標にするのかを揃えることが現実的だと思います。

■ 治療の土台は今も変わらない

肥満治療の土台は、今も変わらず

食事・運動・行動療法です。
(本当はここに睡眠も入れたいところですが……)

その上で近年は、薬物療法や外科療法の制度整備が進み、選択肢が増えてきました。

ただし薬は、“痩身の近道”というより、食事・運動と併用して長期管理を行う包括的肥満管理の一部として位置づけられています。 

また、適応のない痩身目的の使用が健康被害につながることも指摘されており、適正使用の啓発はますます重要です。

結局のところ、言葉や流行よりも、
「安全に、続けられる形で、合併症リスクを下げる」
ことが肥満治療のコアだと理解しています。

■ 治療の現況:まずは「達成可能な減量目標」から

肥満症治療は、いきなり理想体重を目指すというより、まずは現実的に達成できるラインを設定します。

日本肥満学会では、

・一般の肥満症:3~6か月で現在体重の3%減
・高度肥満症(BMI35以上):5~10%減

を目標とする考え方が示されています。 

小さく見える数字ですが、合併症リスクの低下という意味では、ここがスタート地点になります。

■ 治療の土台:食事・運動・行動療法

(ここは昔から変わりません)

・食事療法

総エネルギー摂取量は、目標体重 × 25kcal/日がひとつの目安です。
高度肥満症では20~25kcal/日が目安とされます。

栄養バランス(PFC)は、

・糖質 50~65%
・たんぱく質 13~20%
・脂質 20~30%

が一つの目安です。

・運動療法

1日30分以上、または週150分以上の有酸素運動に加えて、**筋力トレーニング(レジスタンス運動)**を組み合わせることが推奨されています。

■ 薬物療法(新たな選択肢)

みなさんが最近よく耳にするのは、GLP-1受容体作動薬ではないでしょうか。

GLP-1受容体作動薬というクラス自体は日本でも以前から使用されてきましたが、一般にも広く知られるようになったのは、

・週1回注射のオゼンピック®(2020年発売)
・経口薬のリベルサス®(2021年発売)

あたりからではないかと思います。

GLP-1受容体作動薬は、「血糖を下げる」作用に加えて、

・胃の動きを抑える(胃排出を遅らせる)
・脳の食欲中枢に働く

といった作用を持ちます。
その結果として、体重が減少しうることが知られています。

糖尿病治療の中でも、結果として体重が減少することがありますが、これは薬の作用の延長として起こりうる現象と理解しておくと誤解が少ないと思います。

その後、GIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用する薬として、**マンジャロ®(チルゼパチド)**が糖尿病治療薬として登場し、体重管理も含めた治療の選択肢はさらに広がりました。

ここまでは、主に糖尿病治療薬による体重減少の話です。

そして最近の大きな変化は、「肥満症」治療薬としての選択肢が日本でも保険診療として整理されてきたことです。

例えば、

・ウゴービ®(セマグルチド):2023年に肥満症で承認
・ゼップバウンド®(チルゼパチド):2024年末に承認、2025年3月に薬価収載

といった流れで、肥満症治療の薬物選択肢は拡大しています。

ただし位置づけは一貫しています。

これらの薬は、誰でも使える“やせ薬”ではなく、肥満症として適応を満たした場合に、食事・運動療法と併用して用いられる治療薬です。

保険診療では、管理栄養士による栄養指導や、体重・内臓脂肪・血糖・血圧・脂質などを継続的に評価する体制、つまり多職種連携が重要とされています。

補足すると、糖尿病治療薬として広く使われているSGLT2阻害薬(フォシーガ®、ジャディアンス®など)は、糖を尿中に排泄させることで体重が“やや”減少する傾向があります。
ただし主な適応は、

・糖尿病
・心不全
・慢性腎臓病

などであり、肥満症治療薬とは役割が異なる薬です。

※肥満症ではない人に自費で痩身目的に安易に使用され、健康被害が問題になっているケースも指摘されています。

■ 外科的治療

外科的治療(減量・代謝改善手術)は、日本でも治療選択肢としての位置づけが明確になってきました。

・2014年:スリーブ状胃切除術
 胃の大弯側を縦方向に切除し、胃を細い筒状(スリーブ状)にする手術です。胃の容量が小さくなるため、摂取量の減少を通じて体重減少につながります。

・2024年:スリーブバイパス術
 スリーブ状胃切除と同様に胃を細くしたうえで、小腸の一部をバイパスする再建を行う手術です。摂取量の減少に加えて、腸管ホルモンの変化や栄養吸収の調整を通じて、糖代謝や体重に対する効果が期待されます。 

ただし、外科治療は高度肥満症を中心に適応が慎重に判断され、術後も長期の栄養管理と多職種フォローが前提になる治療です。 

■ まとめ

近年は薬や手術など治療の選択肢が広がりました。
それでも、体重管理を長期的に安定させるうえで、睡眠を含めた生活リズムの調整は依然として重要な土台です。

だから私は、肥満の相談を受けた時ほど、
「睡眠も一緒に整える」視点
を外したくないと思っています。


■  参考コラム

・「睡眠不足で太るのは本当か? ― 研究データから読み解く正しい知識
・「肥満と睡眠時無呼吸(OSA)の悪循環
・「痩せればいびき・睡眠時無呼吸(OSA)は治るのか?
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その① 定義・疫学
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その② 病態・リスク・合併症
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その③ 治療  “あなたの無呼吸は、どのタイプですか?

【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
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