鼻の状態で、寝る向きは変わる? ― 無意識に選んでいる“睡眠中の楽な姿勢”
「右の鼻が詰まりやすい人は、自然と右を下にして横向きで寝る。」
同様に
「左の鼻が詰まりやすい人は、自然と左を下にして横向きで寝る。」
これは体の本能的な選択です。
そしてこれは、医学的にも理にかなっています。
■ 鼻甲介と鼻腔抵抗のしくみ
少しだけ鼻の仕組みを説明します。
鼻の内側には下鼻甲介(かびこうかい)をはじめとする粘膜ひだが存在します。
この粘膜下には海綿状静脈洞(cavernous sinusoid)と呼ばれる豊富な血管網が
分布しており、自律神経の支配によって血管の拡張・収縮が調節されています。
血管が拡張すると粘膜が腫脹し鼻腔抵抗(nasal resistance)が上昇、収縮すると
粘膜が退縮して鼻腔抵抗が低下します。この調節が、鼻の通気性を決定します。
■ 側臥位における重力性静脈うっ滞
横向き(側臥位)で寝ると、下側になった鼻甲介の海綿状静脈洞に重力による
静脈血のうっ滞が生じます。静脈圧の上昇により粘膜が腫脹し、鼻腔抵抗が上昇
します。
これは生理的に避けられない現象であり、健常者でも側臥位をとれば下側の鼻腔抵抗
は必ず上昇します。
仰臥位(仰向け)でも同様に、両側の鼻甲介に静脈うっ滞が生じるため、座位と比較して鼻腔抵抗が上昇することが知られています。
引用文献
Rundcrantz H. Postural variations of nasal patency. Acta Otolaryngol. 1969.
■ 圧迫反射(Pressure Reflex)
側臥位では重力による静脈うっ滞に加え、体側への圧迫刺激が神経反射を介して
鼻腔抵抗を変化させることが知られています。
下側の腋窩(ワキの下)・体側が圧迫されると、深部の圧受容体(mechanoreceptor)が
刺激されます。この求心性刺激は同側の交感神経活動を低下させ、鼻粘膜血管の収縮が緩むことで同側の粘膜がさらに腫脹します。
要約すると
・圧迫側 → 交感神経↓ → 血管拡張 → 粘膜腫脹
・反対側 → 交感神経↑ → 血管収縮 → 粘膜退縮
引用文献
Davies AM, Eccles R. Reciprocal changes in nasal resistance to airflow caused by pressure applied to the axilla. Acta Otolaryngol. 1985.
👉 つまり、「下にした側の鼻は必ず詰まりやすくなる」ということになります。
■ 2つのメカニズムが同じ方向に重なる
整理すると、側臥位では上記2つのメカニズムが同側・同方向に作用します。
| メカニズム | 下側 | 上側 |
|---|---|---|
| 重力性静脈うっ滞 | 粘膜腫脹・鼻腔抵抗↑ | うっ滞解消・鼻腔抵抗↓ |
| 圧迫反射(交感神経) | 交感神経活動↓→粘膜腫脹 | 交感神経活動↑→粘膜退縮 |
つまり下側の鼻腔抵抗は2重に上昇し、上側は2重に低下する構造になっています。
■ 狭い側を下にする合理性
では、どちらの側を下にするのが正解でしょうか。
答えはシンプルです。
👉「もともと詰まっている側を下にする」
どちらの側を下にしても、下側の鼻腔抵抗は必ず上昇します。
であれば、元々鼻腔抵抗が高い側(狭い側)を下にして、そのコストを集中させる
ことで、広い側(健側)を上にして通気を確保するのが合理的です。
右の鼻が慢性的に狭い人が自然と右側臥位をとることが多いのは、この生理的
メカニズムに沿った、体が無意識に選択している合理的な姿勢と言えます。
これは患者さんを診ていてもよく見られる現象で、体は理屈より先に
「楽に呼吸できる姿勢」を選んでいることが分かります。
いつも右下で寝ていませんか?
それはもしかしたら右鼻が狭いからかもしれません。
※注意
慢性的・高度の鼻閉や、一側のみの鼻閉が続く場合は、鼻中隔弯曲症・下鼻甲介肥大・鼻茸(鼻ポリープ)などの器質的疾患の可能性があります。耳鼻咽喉科での診察をお勧めします。
■ 参考コラム
・「なぜ鼻は左右で交互に詰まるのか? ― Nasal cycleという正常な現象」
・「鼻中隔弯曲症とCPAP ― 鼻の中が曲がっていると、なぜCPAPは続かないのか?」
・「アレルギー性鼻炎はCPAP治療の壁:鼻づまりが無呼吸を悪化させる理由」
・「昼寝は何分がベスト? 研究データから見る最適な昼寝時間」
・「研究データから見る寝不足とパフォーマンス低下」
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医