なぜ鼻は左右で交互に詰まるのか? ― Nasal cycleという正常な現象
「右の鼻が詰まっていたのに、しばらくすると左が詰まる」 そんな経験はありませんか?
「片方だけ詰まる=異常」と思われがちですが、 これは正常な生理現象です。
むしろ、左右が完全に同じ通気性であり続ける方が不自然とも言えます。
■ 鼻の仕組みとナザルサイクルとは
鼻の中には、下鼻甲介を中心とした粘膜構造があり、 その内部には豊富な血管
(海綿状静脈洞)が存在します。
この血管は自律神経によってコントロールされています。
・交感神経が優位な側:血管が収縮 → 粘膜が退縮 → 鼻が通りやすくなる
・副交感神経が優位な側:血管が拡張 → 粘膜が腫脹 → 鼻が通りにくくなる
この左右の自律神経の優位性が、数時間ごとに入れ替わります。
ナザルサイクル(nasal cycle)とは、 左右の鼻の通気性が数時間ごとに自然に
入れ替わる生理現象です。
健康な成人の約70〜80%に認められており¹、 通常は無意識のうちに進行しています。
周期の長さには個人差があり、30分〜6時間と幅広く、 覚醒時は平均約2時間、睡眠中は平均約4.5時間とされています。
■ なぜこんな仕組みがあるのか
明確な目的は完全には解明されていませんが、 以下のような役割が考えられています。
・鼻粘膜の乾燥を防ぐ(鼻粘液の水分量を保持する)
・吸気の加温・加湿を効率化する
・嗅覚機能の維持
・呼吸防御機能:免疫グロブリンや抗炎症メディエーターを含む血漿滲出液を生成し、感染防御に寄与する
つまり、鼻の機能を守るための"休憩システム"のようなものです。
引用文献
Eccles RB. "The nasal cycle in respiratory defence." Acta Otorhinolaryngol Belg. 2000;54(3):281-286.
■ 注意が必要なケース
ただし、以下の場合は別です。
・いつも同じ側だけ詰まる
・強い鼻閉が続く
・日常生活に支障がある
このような場合は
・鼻中隔弯曲症
・副鼻腔炎
・腫瘍
・鼻茸(鼻ポリープ)
などの器質的疾患が関与している可能性があります。 気になる場合は、耳鼻咽喉科での診察をおすすめします。
■ まとめ
鼻は左右で交互に働く「ナザルサイクル」という仕組みを持っています。
片方だけ鼻が詰まるのは異常ではなく、体の正常なリズムです。
この現象は健康な成人の約70〜80%に存在し、鼻粘膜の保護・加温加湿・感染防御
という重要な役割を担っています。
ただし、常に同じ側だけが詰まる・日常生活に支障がある場合は、器質的疾患の
サインである可能性があります。耳鼻咽喉科への受診をご検討ください。
■ 参考コラム
・「鼻中隔弯曲症とCPAP ― 鼻の中が曲がっていると、なぜCPAPは続かないのか?」
・「鼻の状態で、寝る向きは変わる ― 無意識に選んでいる“睡眠中の楽な姿勢”」
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医