なぜ鼻は左右で交互に詰まるのか? ― Nasal cycleという正常な現象

「右の鼻が詰まっていたのに、しばらくすると左が詰まる」 そんな経験はありませんか?

「片方だけ詰まる=異常」と思われがちですが、 これは正常な生理現象です。

むしろ、左右が完全に同じ通気性であり続ける方が不自然とも言えます。


■ 鼻の仕組みとナザルサイクルとは

鼻の中には、下鼻甲介を中心とした粘膜構造があり、 その内部には豊富な血管
(海綿状静脈洞)が存在します。

この血管は自律神経によってコントロールされています。

・交感神経が優位な側:血管が収縮 → 粘膜が退縮 → 鼻が通りやすくなる

・副交感神経が優位な側:血管が拡張 → 粘膜が腫脹 → 鼻が通りにくくなる

この左右の自律神経の優位性が、数時間ごとに入れ替わります。

ナザルサイクル(nasal cycle)とは、 左右の鼻の通気性が数時間ごとに自然に
入れ替わる生理現象です。

健康な成人の約7080%に認められており¹、 通常は無意識のうちに進行しています。

周期の長さには個人差があり、30分〜6時間と幅広く、 覚醒時は平均約2時間、睡眠中は平均約4.5時間とされています。

引用文献
Eccles R. "A role for the nasal cycle in respiratory defence." European Respiratory Journal. 1996;9(2):371-376. 

Kahana-Zweig R, et al. "Measuring and Characterizing the Human Nasal Cycle." PLoS ONE. 2016;11(10):e0162918.


■ なぜこんな仕組みがあるのか

明確な目的は完全には解明されていませんが、 以下のような役割が考えられています。

・鼻粘膜の乾燥を防ぐ(鼻粘液の水分量を保持する)
・吸気の加温・加湿を効率化する
・嗅覚機能の維持
・呼吸防御機能:免疫グロブリンや抗炎症メディエーターを含む血漿滲出液を生成し、感染防御に寄与する

 つまり、鼻の機能を守るための"休憩システム"のようなものです。

引用文献
Eccles RB. "The nasal cycle in respiratory defence." Acta Otorhinolaryngol Belg. 2000;54(3):281-286. 


■ 注意が必要なケース

ただし、以下の場合は別です。

・いつも同じ側だけ詰まる
・強い鼻閉が続く
・日常生活に支障がある

このような場合は

・鼻中隔弯曲症
・副鼻腔炎
・腫瘍
・鼻茸(鼻ポリープ)

などの器質的疾患が関与している可能性があります。 気になる場合は、耳鼻咽喉科での診察をおすすめします。


■ まとめ

 鼻は左右で交互に働く「ナザルサイクル」という仕組みを持っています。

片方だけ鼻が詰まるのは異常ではなく、体の正常なリズムです。

この現象は健康な成人の約7080%に存在し、鼻粘膜の保護・加温加湿・感染防御
という重要な役割を担っています。

ただし、常に同じ側だけが詰まる・日常生活に支障がある場合は、器質的疾患の
サインである可能性があります。耳鼻咽喉科への受診をご検討ください。


■  参考コラム

・「鼻中隔弯曲症とCPAP ― 鼻の中が曲がっていると、なぜCPAPは続かないのか?
・「鼻の状態で、寝る向きは変わる ― 無意識に選んでいる“睡眠中の楽な姿勢”


【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医

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