CPAPユーザーの災害対策 停電時に備える3つの方法
もし今夜、停電でCPAPが使えなくなったらどうしますか?
睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気・高血圧・不整脈・心不全・脳血管障害など
多くの健康リスクを引き起こす病気です。
参考コラム
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その① 定義・疫学」
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その② 病態・リスク・合併症」
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その③ 治療 “あなたの無呼吸は、どのタイプですか?」
日本では約 80万人 がCPAP(シーパップ)治療を受けていると推定されています。
そのため災害時、特に停電した時に「眠れない不安」を抱えるCPAPユーザーは、
決して少なくありません。
私が現実的だと考える災害時の停電対策は 3つです。
・ バッテリーを準備しておく
・ 横向きで寝る ― "横向き姿勢をサポートする枕" を活用
・ 口腔内装置(マウスピース)を作る
■ 停電対策①: バッテリーを準備しておく
停電への備えとしてバッテリーを買うことは、
決して「CPAPのためだけ」ではありません。
災害時にはスマートフォン、照明、小型家電など、
家族の生命線になる機器を動かす唯一の手段 になります。
バッテリーには以下の違いがあります:
・容量(Wh)
・重さ
・大きさ
・値段
家族構成や必要電力によって “正解は変わる” ので、全員に同じ機種が合うわけではありません。
ここから先は自分で考えるためのサポート情報と思ってください。
● 私の家庭の場合(リアルな実例)
私は 4人家族 で、私も妻もCPAPユーザーという世帯です。
つまり、もし停電したら2台のCPAPを同時に動かす必要があります。
そのため我が家では:
ECOFLOW社 ポータブル電源 DELTA 3 Plus(1024Wh)を常備しています。
今はソーラーパネルは使っていませんが、災害時に連続で何日も電気を確保
できるという安心感は圧倒的なので、ソーラーパネルの導入も考えています。
🔍 ● まずは自分のCPAPの“消費電力”を調べる
バッテリー選びの手順はとてもシンプルです。
STEP1:自分の機種の消費電力(W)を確認(※下の表を参照)
STEP2:バッテリーの容量(Wh)を見る
STEP3:バッテリーの容量(Wh)÷消費電力(W)= 理論上の最大使用時間
例:1536Wh ÷ 18W = 約85時間(約3.5日)
※実際の最大使用時間は
インバーターの変換効率
CPAP機器の実際の消費電力の変動(特に加湿器使用時)
バッテリーの劣化と気温
CPAP以外の充電機器
により変動します
※主要CPAPの消費電力一覧(目安)
| メーカー/機種名 | 加湿器なし | 加湿器あり(最大目安) |
|---|---|---|
| Philips / DreamStation Auto | 最大 25W※ | 最大 80W※ |
| Philips / DreamStation Go | 最大 25W※ | 最大 50W※ |
| ResMed / AirSense 11 | 約10〜20W | 73.2W(Peak) |
| ResMed / AirMini | 6.3W(Typical) | 27W(Peak) |
| Fisher & Paykel / SleepStyle | 平均 15W※ | 最大 60W※ |
| SEFAM / Néa | 公称値なし | 最大 75W(※マスク外れ時) |
補足事項
・「加湿器なし」の消費電力は、設定圧力や機種の効率によって幅があります。
・「加湿器あり」の消費電力は、水を温めるためのヒーターに多くの電力が使われるため、機種によっては最大75W程度に達します。
・小型CPAP(AirMini)は、消費電力が非常に低く抑えられているため持ち運びのしやすさだけでなく災害時対策CPAPとしても優れていると考えます。
なおAirMiniのHumidXは**非加熱の「水なし加湿(waterless humidifier)」**で、
加温加湿のようなヒーター電力を使わないタイプです。
・Philips / Fisher の数値は 各社担当者への確認ベース(私信)。
・ResMedはメーカーPDFに Typical / Peak として記載されています。
「加湿ON/OFF別」の数値ではありません。
・Néaの「最大75W」は マスク外れ時の条件付き最大です。
※「加湿器なしで何時間?」を基準にバッテリー容量を選ぶのが最も合理的です
※ 上記の消費電力はメーカー公表値および担当者への確認情報をもとに記載しています。
使用条件や機種により変動するため、正確な数値は各機器の仕様をご確認ください。
■ 停電対策②:横向きで寝る ― 体位療法(Positional Therapy)
人間は生理的に仰向け姿勢を取りやすく、横向きで寝ていても、無意識のうちに
仰向けへ戻ってしまうことが知られています。
仰向けで寝ると、軟口蓋・舌根などの軟部組織が重力で咽頭側へ落ち込みやすくなり、気道が狭くなります。横向き(側臥位)では、この重力の影響が変わるため、
上気道が閉塞しにくくなる方向に働きます。
体位によって無呼吸が悪化・改善するタイプ(体位依存性OSA/POSA)は、
複数の先行研究から、全OSA患者の約50〜60% に存在すると報告されています。
さらにそのうち、仰向けでのみ無呼吸が出現し、横向きになると消失する
タイプは 約25〜30% とされています。
体位療法(横向き姿勢をサポートする治療)が無治療よりもAHI(無呼吸低呼吸指数)
と日中眠気を有意に改善することが確認されています。
※ただしCPAPと比較すると、CPAPのほうがAHI改善効果は大きいとされています。
Srijithesh PR, et al. Positional therapy for obstructive sleep apnoea. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2019.
つまり、「横向き姿勢をサポートする」工夫は、停電時のバックアップとして、
一定の根拠がある対策です。
ただし問題は、「横向き姿勢をいかに朝までサポートし続けるか」 です。
そこで活躍するのが、横向き姿勢をサポートする枕や抱き枕です。
※注意
重症OSAや強い眠気・心血管系の合併症がある方は、体位療法だけで代替できない場合があります。停電時の“バックアップ策”として、事前に主治医と相談しつつ準備しておくのが安心です。
👉星野耳鼻咽喉科 睡眠呼吸センターでは「横向き姿勢をサポートする枕」 について
以下の3種類の枕を例に挙げています。
①LOFTY ボディーピロー いびき
抱き枕+背中側の“ストッパーというコンセプトで側臥位姿勢を“サポートする” 枕です。 患者さんへ説明するとき、「U字枕」 と呼んでいます。
商品詳細説明「LOFTY ボディーピロー いびき」
②BRAIN SLEEP ピロー スタンダード
枕の左右(両サイド)に行くほど弾力が高まる構造のため、横向きで寝やすい
設計になっています。
商品詳細説明「BRAIN SLEEP ピロー スタンダード」
③アパホテル 枕 PRIDEFIT
枕の左右(両サイド)が中央部分より高くなっているため横向き姿勢で寝やすい
設計になっています。
商品詳細説明「アパホテル 枕 PRIDEFIT」
枕は使ってみないと本当に合うか分かりません。迷われる方のために、私が個人的に
おすすめできるものをいくつか掲載しています。必要に応じて参考にしてください。
■ 停電対策③:口腔内装置(マウスピース)を用意する
口腔内装置(Oral Appliance:OA)は
単なる“マウスピース”ではありません。
下顎を前方へ誘導し、
舌根・軟口蓋が落ち込むのを防ぎ、
上気道の通気性を確保する 医療装置 です。
※OAが災害時に強い理由
・電源不要
・小さい
・CPAPと異なり機械の音がしない
・持ち運び簡単
・横向き枕との相性
などが挙げられます。
※一般的に考えられているOAの適応、限界そしてリスクを紹介します
良い適応
・軽〜中等症のOSA
・重症でもCPAPが困難な例
・携帯性が必要な出張・旅行
・体位依存性OSA(横向きでイビキが改善するタイプ)
限界
・重症OSA(基本はCPAP)
・高度肥満
・歯周病・虫歯多数
・顎関節症
・鼻閉(鼻呼吸が安定していないと使用困難)
リスク
・顎関節症状
・咬合変化
・唾液増加
ネット通販型は推奨しません
(医科×歯科連携で適合・副作用管理・効果確認が必要なため)
※OAはどこで作る?
OAは 歯科で作成します。
一般的な流れ:
①医科で睡眠時無呼吸の診断と適応判断
②歯科へ紹介→OA作成
■ まとめ
停電時の現実的な対策は
「バッテリー」「横向き寝」「口腔内装置」という現実的で再現性の高い3つの選択肢
に集約されます。
とくにバッテリーは、CPAPだけでなく家族の安全にも直結する“生活インフラ”です。
また、横向き寝と口腔内装置は、電源がない状況でも睡眠時無呼吸を軽減できる
重要なバックアップ手段です。
災害はいつ起きるかわからず、電源の確保も保証されません。
だからこそ「電源がない時にどうするか」を日頃から準備しておくことで、
自分自身と家族の安心を大きく守ることができます。
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医