トリプトファンを含む食事で睡眠は改善する?
「トリプトファンを摂るとよく眠れる」
こういう話を聞いたことがある方は多いと思います。
外来でも、
「バナナがいいって聞きました」
「牛乳を飲むようにしています」
と聞かれることがあります。
方向性として間違った話ではありませんが、かなり端折られて
伝わっているのも事実です。
■ トリプトファンは“材料”にすぎない
トリプトファンは必須アミノ酸で、
体の中では作れないため、食事から摂る必要があります。
また、トリプトファンはセロトニンやメラトニン
といった、睡眠と覚醒のリズムに関わる物質の材料になります。
ただし、
トリプトファンを摂った=メラトニンが増える
という単純な話ではありません。
■ トリプトファン → セロトニン → メラトニン
体の中では、
トリプトファン → セロトニン → メラトニン
という順番で変換されます。
このうち、
セロトニンは主に日中に作られ、
夜になるとメラトニンへ変換されます。
そしてこの過程には、「食事以外のとても重要な条件」がいくつも関わっています。
■ ビタミンB6がないと、セロトニンは作られない
見落とされがちですが、
トリプトファンがセロトニンに変わる過程では
ビタミンB6が酵素の補因子として不可欠です。
つまり、
・トリプトファンだけ意識しても不十分
・ビタミンB6が一緒にないと、うまく回らない
ということです。
実際には、
・バナナ
・魚(マグロ・カツオなど)
・鶏肉
・納豆や豆腐などの「大豆製品」
といった食品は、
トリプトファンとビタミンB6を同時に摂れるため、理にかなっています。
特別なサプリを足さなくても、普通の食事で十分カバーできます。
……と言いながら、私はビタミンBのサプリを毎日飲んでいます(笑)。
■ セロトニンは「朝の光」でスイッチが入る
もう一つ、非常に大事なのが光です。
セロトニン系の働きや体内時計の調整には、朝の光曝露が重要です。
朝起きて、
・カーテンを開ける
・曇りでも屋外の光を浴びる
これだけで、脳は「今日は活動する日だ」と認識します。
夜のスマホや照明を控えることはもちろん大切ですが、
朝に光を浴びない生活では、セロトニンは十分に作られません。
食事と同じくらい、朝の光は重要です。
👉参考コラム「光と睡眠の科学:体内時計を整える光の使い方」
■ 夜にメラトニンが出る条件
日中に作られたセロトニンは、
夜、暗くなることでメラトニンに変換されます。
逆に言えば、
・夜遅くまで強い照明
・寝る直前までスマホ
こうした環境では、材料があってもメラトニンは出ません。
食事 × 光 × 生活リズム
この3つが揃って、初めて意味を持ちます。
■ メラトニンの薬について(よくある誤解)
「メラトニンを飲めばいいのでは?」
と考える方もいますが、日本では整理が必要です。
ラメルテオン(商品名:ロゼレム)はメラトニンそのものではなく、
メラトニン受容体作動薬です。
日本で承認されているメラトニン製剤は商品名:メラトベルのみで、
小児の特定の病態が適応です。
日本では、メラトニンは医薬品として扱われています。
安易な個人輸入や自己判断は、おすすめできません。
👉参考コラム「メラトニンとは?睡眠ホルモンの働きと、光・食事・サプリで整える具体的な方法」
■ 「食事を気をつけているのに眠れない」場合
ここが一番大事なところです。
・不眠
・夜中に目が覚める
・早朝覚醒
これらの背景には、
・睡眠時無呼吸症候群
・体内時計のずれ
・ストレスや不安
・薬の影響
など、食事では解決しない原因が隠れていることも少なくありません。
トリプトファンはとても大事な必須アミノ酸ですが、万能ではありません。
■ まとめ
・トリプトファンは睡眠の「材料」
・ビタミンB6とセットで意味を持つ
・朝の光がセロトニン合成のスイッチ
・夜の暗さがメラトニン分泌の条件
・睡眠が崩れている原因は、食事だけとは限らない
「ちゃんと材料は揃っているのに眠れない」
そういうときは、別の視点での評価が必要です。
■ 参考コラム
・「光と睡眠の科学:体内時計を整える光の使い方」
・「メラトニンとは?睡眠ホルモンの働きと、光・食事・サプリで整える具体的な方法」
・「GABA(ギャバ)とは?― ストレスと睡眠の関係から考える」
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医