トリプトファンの多い食事を心がけると、睡眠は本当に良くなるの?
「トリプトファンを摂るとよく眠れる」
こういう話を聞いたことがある方は多いと思います。
外来でも、
「バナナがいいって聞きました」
「牛乳を飲むようにしています」
と聞かれることがあります。
方向性として間違った話ではありませんが、かなり端折られて
伝わっているのも事実です。
トリプトファンは“材料”にすぎない
トリプトファンは必須アミノ酸で、
体の中では作れないため、食事から摂る必要があります。
また、トリプトファンはセロトニンやメラトニン
といった、睡眠と覚醒のリズムに関わる物質の材料になります。
ただし、
トリプトファンを摂った=メラトニンが増える
という単純な話ではありません。
トリプトファン → セロトニン → メラトニン
体の中では、
①トリプトファン
②セロトニン
③メラトニン
という順番で変換されます。
そしてこの過程には、「食事以外のとても重要な条件」がいくつも関わっています。
ビタミンB6がないと、セロトニンは作られない
見落とされがちですが、
トリプトファンがセロトニンに変わる過程では
ビタミンB6が酵素の補因子として不可欠です。
つまり、
・トリプトファンだけ意識しても不十分
・ビタミンB6が一緒にないと、うまく回らない
ということです。
実際には、
・バナナ
・魚(マグロ・カツオなど)
・鶏肉
・納豆や豆腐などの「大豆製品」
といった食品は、
トリプトファンとビタミンB6を同時に摂れるため、理にかなっています。
特別なサプリを足さなくても、普通の食事で十分カバーできます。
……と言いながら、私はビタミンBのサプリを毎日飲んでいます(笑)。
セロトニンは「朝の光」でスイッチが入る
もう一つ、非常に大事なのが光です。
セロトニンは、「朝に目から光が入ることで合成のスイッチが入る」
という性質があります。
朝起きて、
・カーテンを開ける
・曇りでも屋外の光を浴びる
これだけで、脳は「今日は活動する日だ」と認識します。
夜のスマホや照明を控えることはもちろん大切ですが、
朝に光を浴びない生活では、セロトニンは十分に作られません。
食事と同じくらい、朝の光は重要です。
👉参考コラム「光と睡眠の関係」
夜にメラトニンが出る条件
日中に作られたセロトニンは、
夜、暗くなることでメラトニンに変換されます。
逆に言えば、
・夜遅くまで強い照明
・寝る直前までスマホ
こうした環境では、材料があってもメラトニンは出ません。
食事 × 光 × 生活リズム
この3つが揃って、初めて意味を持ちます。
メラトニンの薬について(よくある誤解)
「メラトニンを飲めばいいのでは?」
と考える方もいますが、日本では整理が必要です。
ラメルテオン(商品名:ロゼレム)はメラトニンそのものではなく、
メラトニン受容体作動薬です。
日本で承認されているメラトニン製剤は商品名:メラトベルのみで、
小児の特定の病態が適応です。
2026年現在、メラトニンは日本では医薬品扱いであり、
ドラッグストアで市販されているものではありません。
安易な個人輸入や自己判断は、おすすめできません。
👉参考コラム「メラトニンとは?睡眠ホルモンの働きと、光・食事・サプリで整える具体的な方法」
「食事を気をつけているのに眠れない」場合
ここが一番大事なところです。
・不眠
・夜中に目が覚める
・早朝覚醒
これらの背景には、
・睡眠時無呼吸症候群
・体内時計のずれ
・ストレスや不安
・薬の影響
など、食事では解決しない原因が隠れていることも少なくありません。
トリプトファンはとても大事な必須アミノ酸ですが、万能ではありません。
まとめ
・トリプトファンは睡眠の「材料」
・ビタミンB6とセットで意味を持つ
・朝の光がセロトニン合成のスイッチ
・夜の暗さがメラトニン分泌の条件
・睡眠が崩れている原因は、食事だけとは限らない
「ちゃんと材料は揃っているのに眠れない」
そういうときは、別の視点での評価が必要です。