イビキが気になったら最初にやること― 専門医が解説する受診前に知っておくべきこと
まず、安心してください
「最近いびきがひどい」
「寝ても疲れが取れない」
「パートナーに呼吸が止まっていると言われた」
そう感じてこのコラムを開いたあなたは、すでに多くの人より一歩先にいます。
世界的な推計によれば、日本では
・AHI 5以上(軽症以上):約2,200万人
・AHI 15以上(中等症以上):約900万人
の睡眠時無呼吸患者がいると報告されています。
Benjafield AV et al. "Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis." Lancet Respir Med. 2019;7(8):687–698.
しかし、未だ多くの人は「いびきはそういうもの」と放置し、受診に至っていません。
気になっている、その感覚は正しいセンサーです。
このコラムを読んでいる時点で、すでに前に進んでいます。
■ なぜOSAは起きるのか
OSAは単純に「肥満」「気道が狭い」だけで起きるわけではありません。
現在の睡眠医学では、4つの要因の組み合わせで理解されています。
① 解剖学的要因
上気道が構造的に狭い状態です。
扁桃肥大、軟口蓋の弛緩、小顎や下顎後退などが代表例です。
程度の差こそあれ、ほぼすべての人がこの要因を多少なりとも持っています。
② 咽頭開大筋の反応性低下
睡眠中、気道を広げようとする筋肉(主に舌を前方に引く筋群)の働きが弱まる
ことで気道が閉塞しやすくなります。
③ 呼吸調節系の不安定性
呼吸リズムのコントロールが乱れやすい体質(ループゲイン高値)では、少しの刺激
で呼吸が過剰反応し、無呼吸を繰り返しやすくなります。
④ 覚醒閾値の低さ
わずかな気道の狭窄でも目が覚めやすい人は、睡眠が何度も分断されます。
これ自体が睡眠の質を著しく下げると同時に、夜間の無呼吸の回数にも影響します。
この4要因はどの割合で組み合わさっているかによって、OSAの「病型(タイプ)」が変わります。どの病型かによって、最適な治療法も異なってきます。
■ 耳鼻咽喉科医として、最初にすすめること
私は睡眠学会専門医として、また耳鼻咽喉科専門医として多くのOSA患者を診察してきました。
さまざまな診療科がそれぞれの専門性でOSAに関わっていますが、耳鼻咽喉科の立場
からまず勧めるのは、自分の「解剖学的なポイント」を知ることです。
なぜそう言えるのか?
Eckert らの代表的な研究によれば、 先ほど紹介した4要因のうち「解剖学的要因」は
程度の差こそあれ ほぼ全例に認められると報告されています。
一方、「咽頭開大筋の反応性低下(36%)」、 「低覚醒閾値(37%)」、「高ループゲイン(36%)」にとどまります。
Eckert DJ et al. "Defining phenotypic causes of obstructive sleep apnea: identification of novel therapeutic targets." Am J Respir Crit Care Med. 2013;188(9):996–1004.
つまり、どの病型のOSA患者にとっても 「まず解剖学的ポイントを評価する」ことが
最初の一歩として合理的と考えています。
実際に耳鼻咽喉科で確認する主な評価項目を挙げます。
・口蓋扁桃の大きさ(Brodsky分類)
・軟口蓋・口蓋垂の形状と長さ
・舌根・舌扁桃の状態
・Mallampati分類(口を開けたときの咽頭の見え方)
・顎顔面形態(小顎・後退顎・顎の大きさのバランス)
・舌位
・舌骨位
・鼻腔通気障害の有無(鼻中隔弯曲・下鼻甲介肥大など)
など多岐にわたります。
これらの所見は、どの治療法が有効かを判断する羅針盤になります。
■ 種類の検査を知っておく
OSAの診断には、主に2つの検査があります。
在宅簡易睡眠検査(HSAT:Home Sleep Apnea Testing)
自宅で就寝中に装着するだけで行える検査です。
呼吸流量・血中酸素飽和度・いびき音・体位などを計測します。
スクリーニング検査として広く使われています。
終夜ポリグラフ検査(PSG:Polysomnography)
医療機関に1泊入院して行う精密検査です。脳波・眼球運動・筋電図・呼吸・心電図
など多数の指標を同時計測し、睡眠段階まで含めた詳細な評価が可能です
おおまかな流れとしては、まず受診してHSATでスクリーニングを行い、重症度や病型に応じてPSGへ進む、という順序になります。
日本睡眠学会専門医療機関であれば、これら一連の流れを同一施設で完遂する
ことが可能です。
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■ 治療の選択肢:「一択」ではない
OSAという病名は一つでも、病型は人によって様々です。そのため治療の選択肢も
一つではありません。また、治療法は目的によっても異なります。
かなり簡便ではありますが、様々な治療選択肢の概要を示します。
CPAP(持続陽圧呼吸療法)
中等症〜重症OSAの標準治療で、睡眠中にマスクを装着します。
気道に持続的な陽圧をかけて虚脱を防ぎます。
口腔内装置(マウスピース)
下顎を前方に出した状態で固定することで気道を拡大します。
軽〜中等症の方が対象になります。
体位依存性OSAとの相性が良く、旅行や出張にも使いやすい治療ですが、
噛み合わせや顎関節への負担には注意が必要です。
一般的にBMIが高くなるほど治療成績は低下します。
体位療法
横向き寝姿勢をサポートすることで仰向け時の気道閉塞を軽減します。
仰向けに悪化する体位依存性OSAに有効です。
口腔内装置と組み合わせることで良好な成績が報告されています。
外科的治療
扁桃肥大・鼻閉・顎顔面形態の問題など、解剖学的な原因が明確な場合に検討します。
舌下神経刺激植え込み術
胸部に埋め込んだ小型デバイスが呼吸に同期して舌下神経を電気刺激し、睡眠中の
舌根沈下を防ぐ治療です。CPAPが継続できない症例に対して日本でも2021年から
保険適用となりました。
減量・生活習慣の改善
肥満を合併するすべての患者に推奨されます。体重の減少は気道周囲の脂肪を減らし、OSAの改善を目指します。基本は正しい栄養の知識をベースとして運動です。
近年、減量を目的とした薬物療法も普及しています。
肥満減量手術(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術など)
高度肥満(BMI 35以上が目安)を合併するOSA患者において、胃の容量を減らす手術
によって体重を大幅に減少させ、OSAの改善を目指します。
生活習慣改善だけでは体重コントロールが困難な高度肥満例において検討されます。
薬物療法
覚醒閾値や呼吸調節系に作用する薬剤の研究が進んでいますが、現時点では研究段階
です。
どれが最適かは、病型・重症度・生活背景によって変わります。
だからこそ、まず診察と検査を受け、専門医と相談して治療法を選ぶことが出発点に
なります。
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■ まとめ:今日からできる3ステップ
Step 1|症状を記録する
いびきの頻度、日中の眠気の程度、起床時の頭痛・口渇・倦怠感などをメモしておきましょう。受診の際に医師が病型を判断する手がかりになります。
Step 2|耳鼻咽喉科または睡眠専門外来を受診する
まずは解剖学的な評価と在宅簡易検査(HSAT)の処方を受けてください。
自覚症状が軽くても、検査値が予想外に高いことはよくあります。
Step 3|病型に合った治療を専門医と選ぶ
検査結果と診察所見をもとに、CPAP・口腔内装置・体位療法・手術など、
自分に合った治療を専門医と相談して決めましょう。
気になっているという感覚は正しいセンサーです。
OSAは放置すると高血圧・心房細動・糖尿病などのリスクを高めることが知られています。しかし裏を返せば、適切に治療すれば改善できる病気です。
まず一歩――受診という一歩を、ぜひ踏み出してください。
■ 参考コラム
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その① 定義・疫学」
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その② 病態・リスク・合併症」
・「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):その③ 治療 “あなたの無呼吸は、どのタイプですか?」
・「肥満と睡眠時無呼吸(OSA)の悪循環」
・「肥満治療の現況:肥満・肥満症・メタボの違いと最新の治療選択肢」
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医