人はなぜ眠るのか 睡眠の役割と3つの調節メカニズム
【① 人はなぜ眠るのか?】
睡眠は「単なる休息の時間」と思われがちですが、実際の睡眠中の身体では、さまざまな高度な処理が進行しています。
そして睡眠時間は、脳と身体が健康を維持するために欠かせない 特別な時間 です。
■ 脳は眠っている間に“整備”されている
脳の老廃物を除去
アミロイドβなどの老廃物を除去します。アミロイドβが蓄積するとアルツハイマー病になると考えられています。
記憶の整理
起きている間に得た情報を整理・統合し、長期記憶として定着させます。
感情の調整
扁桃体などの感情に関わる領域の活動を調整し、ストレスや感情的な経験を処理するのを助けます。
神経ネットワークの再構築
効率的な神経ネットワークを維持します。不要な接続を弱め、重要な接続を強化します。
つまり、睡眠は脳の「メンテナンスタイム」です。
■ 身体も眠っている間に“修復”されている
免疫の調整
睡眠中にサイトカインなどの免疫物質が活発に生成・分泌されます。風邪をひいたときに眠くなるのは、体が免疫系を働かせるための自然な反応です。
ホルモンバランスの調整
成長ホルモンは主に深いノンレム睡眠中に多く分泌され、体の修復や成長を促します。また、コルチゾール(ストレスホルモン)などは睡眠中に分泌量が調整されます。
細胞の修復
成長ホルモンの働きや、日中に受けたダメージ(紫外線など)からの回復が促進されます。
代謝の最適化
エネルギー消費を抑えつつ、翌日に備えて糖代謝や脂質代謝のバランスを整えます。
つまり、睡眠は体の「メンテナンスタイム」でもあります。
【② 睡眠を調節するメカニズム】
人が「夜に眠くなり、朝に目覚める」という当たり前のリズムは、脳にある2つのスイッチのようなメカニズムによって精密にコントロールされています。この2つの仕組みを「2プロセスモデル」と呼びます。
① プロセスS:【眠気の貯金箱】(睡眠恒常性)
これは、起きている時間に比例して「眠気」がどんどん溜まっていく仕組みです。
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目覚めた瞬間から、脳の中に「眠気の素」(アデノシンなど)が少しずつ蓄積されていきます。まるで眠気の貯金箱にコインを入れていくようなものです。
働き
起きている時間が長ければ長いほど、貯金箱は満杯に近づき、眠気は強くなります。最終的に「もう寝ないと無理だ!」という状態になります。
解消方法
眠ることで貯金箱の中身は空っぽになり、スッキリ目覚めます。
ただし長い昼寝は眠気の貯金箱を空にしてしまい、夜の寝つきを悪くします。
② プロセスC:【体内時計】(概日リズム:サーカディアンリズム)
これは、約24時間周期で働く「アラーム付きの時計」のような仕組みで、夜に眠り朝に覚醒するという基本リズムの司令塔です。
イメージ
脳の奥にある小さな「体内時計」が、夜になると「寝る時間だよ」と教えてくれ、朝になると「起きる時間だよ」とアラームを鳴らします。
働き
これが「夜になると自然に眠くなる」「朝になると自然に目が覚める」というリズムを作っています。光を浴びることでリセットされ、正確な時間を刻みます。
調整役
「メラトニン」というホルモンが分泌され、眠気を促します。
■ 医師としてのまとめ
睡眠は、私たちが日中に最良のパフォーマンスを発揮するための
「ただの休息ではない、生存のための戦略」
です。
そして睡眠は、
脳の疲労(睡眠恒常性)
昼夜リズム(体内時計)
この2つが絶妙なバランスで働くことで調整されています。
どれか1つでも乱れると、
・寝つき不良
・中途覚醒
・早朝覚醒
・日中の眠気
など、不眠症・概日リズム障害など多様な睡眠障害の引き金 になります。
睡眠は意志ではなく“仕組み”で決まるため、努力だけでは改善しません。