概日リズム睡眠障害とは?体内時計がずれる原因と6つのタイプ
昼夜逆転は概日リズム睡眠障害?
よく患者さんから質問されるテーマです。
概日リズム(サーカディアンリズム)とは、私たちの体内時計がつくる約24時間の生体リズムです。
このリズムがずれると、眠る時間・起きる時間が合わなくなり、日常生活そのものが崩れてしまいます。
概日リズムは睡眠・覚醒だけでなく、
・体温
・ホルモン分泌
・自律神経
・代謝
・健康全般
といった生命活動は、視交叉上核(SCN)を中枢とする体内時計によって緻密に調整されています。
人間の体内時計は24時間より少し長く平均すると約24.2〜24.5時間と言われています。光・食事・活動などの同調因子によって毎日少しずつ前進し、24時間周期に同調しています。
しかし現代の24時間社会では、
・夜の強い光
・スマホ
・不規則な生活
によって概日リズムの同調が乱れやすくなります。
この同調の乱れが修正できず固定化すると、概日リズム睡眠障害が起こります。
■ 概日リズムがずれると何が起こる?
・寝たい時間に眠れない
・起きたい時間に起きられない
・朝の強い眠気
・頭痛・めまい・倦怠感
・登校・出勤時刻に間に合わない
など、社会生活に大きな影響を及ぼします。
ポイント:気合と根性では治せない。
脳の生理機能の問題だからです。
■ 概日リズム睡眠障害の主な6タイプ
概日リズム睡眠障害にはいくつかのタイプがあります。
代表的なものを紹介します。
(※診断には、少なくとも14日以上の睡眠日誌、またはアクチグラフによる記録が重要です)
① 睡眠相後退型(Delayed Sleep Phase Syndrome : DSPS)
思春期〜若年に多い。
睡眠開始時刻が 午前1時〜6時まで後退し、
自然な起床は正午前後になる。
睡眠開始が大きく後退しているため、
社会的に望ましい時刻に起床しようとすると
「睡眠酩酊(Sleep Inertia:覚醒がきわめて困難で混乱する状態)」 が生じる。
就床時刻と起床時刻がともに後退していることで、
・夜遅くの明るい光暴露 → 概日リズムがさらに後退
・朝の光暴露の欠如 → リズム前進が不足
という悪循環が形成される。
このように、
体内時計が大きく後方にずれているため、
望ましい起床時刻に合わせることが非常に難しくなる。
② 睡眠相前進型
夕方頃から強い眠気を感じるようになり、
睡眠開始時刻が通常より早くなる。
その結果、
早朝に自然に目が覚めるようになる。
早朝に覚醒してしまった後、
無理に眠り続けようとすることで
続発性の条件づけられた不眠症に進展することがある。
多くは中年期以降に発症する。
③ 不規則睡眠・覚醒リズム障害
睡眠と覚醒の明確な概日リズムが消失しており、
入眠時刻・起床時刻が24時間の中で大きく変動する状態を指す。
このタイプの経過や合併症に関する知見はまだ十分ではない。
一方で、
不適切な睡眠衛生や自発的な不規則生活によって生じている単なる不規則睡眠とは
明確に鑑別する必要がある。
④ 自由継続型(非24時間睡眠覚醒リズム障害)
ヒトの概日リズムは本来 24時間よりわずかに長い。
そのため、地球の自転周期(24時間)に同調するには、
生活環境からの**規則的な時間情報(zeitgeber:同調因子)**が必要となる。
光以外の時間情報も役割を持つが、
同調因子として最も重要なのは 明暗サイクル(光刺激) である。
したがって、光情報の入力が十分に得られない場合、
体内時計が外界に同調できなくなる。
自由継続型の特徴は、
外界からの明確な時間的手がかりが不足することで、
睡眠・覚醒リズムが毎日少しずつ後退していく 点にある。
⑤ 交代勤務型
文字通り、本来睡眠をとる時間帯に労働が割り当てられることにより、
「寝たい時に眠れない」「日中に過度な眠気が出る」などの問題が生じるタイプ。
交代勤務には、
・夜間勤務
・早朝勤務
・ローテーション勤務
など複数のパターンがあるが、
夜間勤務・早朝勤務に関連したリズム障害が特に多く報告されている。
交代勤務に対する耐性には大きな個人差があり、
その差を生じる要因については、今後さらに研究が必要と考えられている。
⑥ 時差障害(Jet Lag:いわゆる時差ぼけ)
海外渡航時に多くの人が経験する、体内時計と現地時間のズレによって起こる状態。
内因性の睡眠覚醒リズムと、渡航先で求められる睡眠覚醒リズムとの間に時間的
ミスマッチが生じることで症状が現れる。
一般に、
東向き(時間を早める方向)への移動は適応が難しく、
西向き(時間を遅らせる方向)への移動は比較的適応しやすい。
また、時差への適応能力には 個人差 が大きく、
年齢、光の浴び方、睡眠習慣、生活リズムなどが影響するとされる。
★まずは “睡眠日誌” をつけてみましょう。 14日以上、毎日の就床・起床・眠気・光暴露時間などを記録することで、ご自身のリズム障害タイプの傾向が見えてきます(書式や記録の方法は 厚生労働省のサイトも参考にしてください)。
記録したデータを基に、上記「主な6タイプ」の説明を読んで「自分はどのタイプか?」をセルフチェックしてみてください。
👉厚生労働省webサイト「健康日本21アクション支援システム」
■ 治療の原則
体内時計を“24時間の世界”に同調させること
まず重要なのは、
・本人の「治したい」という意思
・年齢に応じた適切な睡眠時間の確保
その上で、
望ましい時刻に適切な同調因子を入れることが治療の中心。
◆ 治療1:光に対してもっと敏感に(光は最強の同調因子)
睡眠相後退型(DSPS)は、適切な睡眠時間を確保したうえで
**朝の光(起床直後〜1時間以内)**が重要。
夜は
・スマホ
・PC
・強い照明
を避ける。
夜の光は“メラトニン分泌を抑制”する
夕方〜就寝前の強い光はメラトニン分泌を抑えてしまうため、
夜の光刺激には特に注意が必要です。
人は本来、夜行性ではありません。
◆ 治療2:医学的に推奨できる “光時計(光目覚まし)” の活用
朝に太陽光が浴びられない、
冬で朝が暗い、
学生が朝起きられない——
そんなケースでは 光療法の一環として“光時計”が非常に有効です。
ただし、適切な睡眠時間を確保した上でないと効果は出ません。
たとえば「2時に寝て6時に光を当てる」場合、
まだ心身を回復させるための睡眠の真っ最中であり、
その時点で光を当てても 体内時計を整える以前に“無理やり覚醒させられるだけ”で苦痛でしかありません。
しかし、この点を理解したうえで適切な睡眠時間を確保し、
正しいタイミングで光を浴びれば、
光時計は非常に有効なリズム改善ツールとなる可能性があります。
【参考デバイス】
・moonmoon トトノエライト 光 目覚まし時計 (トトノエライトプレーン)
・フィリップス ・ウェイクアップライト Philips Wake-Up Light HF3520/[並行輸入品]
◆ 治療3:メラトニン(体内時計の“夜のサイン”)を意識
医療機関で扱うメラトニン関連薬:
・メラトベル(徐放性メラトニン製剤)
・ロゼレム(ラメルテオン:メラトニン受容体作動薬)
いずれも体内時計に作用する薬剤。
医師の診断が必要で、市販では購入できません。
◆ 治療4:自分でできるセルフケア(トリプトファンと栄養)
🔍 トリプトファンとは?
メラトニンの材料となる必須アミノ酸。
体内では
トリプトファン → セロトニン → 夜にメラトニン
と変換。
さらに ビタミンB6・マグネシウム不足 もメラトニン生成低下につながる。
トリプトファンの多い食品
鯖缶/牛乳/チーズ・ヨーグルト
味噌・納豆・大豆製品
卵/バナナ/ナッツ類
◆ 治療5:トリプトファン含有サプリの活用
トリプトファンを含むサプリメントについては、効果の個人差や、用量・併用薬に
よるリスク、長期使用に関する安全性の評価が十分とは言えない側面があります。
そのため、Good Sleep Solutions(GSS)では、トリプトファン単体を含む
サプリメントの販売・推奨は行っておりません。
■ 医師としてのまとめ
概日リズム睡眠障害は、
・気合では治らない(気合の問題ではない)
・“体内時計のズレ”という脳の生理機能の問題
治療の中心は、
・本人の治したいという意思
・年齢に応じた適切な睡眠時間
・光に対して正しく向き合う
・メラトニンを意識した生活(食事と光)
・規則正しい生活
・トリプトファンや栄養バランスを意識した食事
そして自分と向き合う入口は
「睡眠日誌をつけること」。
“自分で書く習慣”そのものが
認知行動療法的効果 を持ち、治療の第一歩になります。
・「メラトニンとは?睡眠ホルモンの働きと、光・食事・サプリで整える具体的な方法」
・「朝起きられず目覚ましを何回もかける人へ」
・「光と睡眠の科学:体内時計を整える光の使い方」
・「寝る前にスマホを見ると眠れなくなるのはなぜ? ― 光と脳の"覚醒スイッチ"の仕組み」
■ 参考書籍
・「イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める!睡眠のしくみ (単行本)」
・「睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (電子書籍)」
・「中学校「みんいく」ハンドブック ~よい睡眠を実践しよう~ (単行本)」
【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医