アルコールと睡眠 寝酒で“眠れる”は本当か?

アルコールは寝つきを早めることがありますが、大量飲酒では睡眠後半を中心に睡眠の質を低下させます。
正しい知識があれば、楽しい飲酒と良い睡眠の両立を目指せます

■ アルコールの睡眠構築(sleep architecture)への影響

アルコールの影響は摂取量に依存し、少量では目立ちにくい一方、大量飲酒では睡眠構造の乱れが目立ちます。

入眠は良く感じても、睡眠の質は低下しやすい ― “眠りの前借り

アルコールには中枢神経を抑制する作用(GABA作動性増強)があるため、
飲酒後は 入眠潜時(寝つくまでの時間)が短縮 します。

そのため、多くの方が
「寝酒をすると寝つきが良い」
と感じられるのです。

しかし、これは 一時的な鎮静効果にすぎず、睡眠の質を保証するものではありません。


深睡眠(ノンレム睡眠ステージ3)の変化前半は増加、後半は減少

アルコール摂取後の睡眠前半では、
深いノンレム睡眠(ステージ3)が増加し、
まずは「深く眠れた」ように感じます。

しかし、アルコールが代謝され、
血中アセトアルデヒド濃度が上昇する睡眠後半になると状況は一変します。

・交感神経活動が亢進(身体が警戒モードに)
・心拍数の上昇
・深睡眠の顕著な減少

その結果、睡眠全体のバランスが崩れ、回復力が大きく低下します。


③ REM睡眠の乱れ ― “抑制リバウンド

アルコールは睡眠前半のREM睡眠を抑制します。

しかし代謝が進む睡眠後半では、
生理的に睡眠後半に増えるREMが、さらに増えすぎる REMリバウンド(反動でREM睡眠が過剰に増加)となり、自律神経の乱れが生じます。


中途覚醒が増えます代謝・アセトアルデヒド・利尿作用の影響

アルコール代謝が進行すると、

・覚醒作用(交感神経亢進)
・体温リズムの乱れ
・利尿作用による夜間トイレ
・口渇・喉の渇き
・動悸・発汗

これらが複合的に重なり、中途覚醒が増加します。

その結果、
「眠ったはずなのにまったく回復していない」という状態が生じます。


睡眠時無呼吸の悪化咽頭筋弛緩とREM増加の二重悪化

アルコールには筋弛緩作用があるため、

・舌根沈下が起こりやすくなる
・咽頭筋が弛緩する
・いびきが悪化する

さらに、睡眠後半のREMリバウンド+REM期特有の抗重力筋トーヌス低下により、無呼吸がより悪化します。

睡眠時無呼吸症候群(OSA)の方は特に注意が必要です。
→ CPAP
治療中の方は、飲酒時のCPAP使用を必ず徹底してください。


結論(医師の総括)

アルコールは寝つきのみを見ると良いようにみえます。
しかし睡眠前半の深睡眠増加は、一時的な鎮静による見せかけです。

・睡眠後半の睡眠構造は深刻に乱れる
・REM睡眠は抑制過剰リバウンド
・中途覚醒が大幅に増加
・いびき・無呼吸は悪化しやすくなる

つまり、

「入眠は良いが、睡眠の質は確実に悪化する」。
これがアルコールの睡眠構築に対する医学的本質です。


■ 睡眠専門医師としての本音

現実には、飲みたい日もあります。
飲まなければならない日もあります。

そして多くの方の本音はこうです。

「飲む日は飲む。でも翌日のパフォーマンスは落としたくない。」
「飲んだ翌日もスマートに働きたい。二日酔いの姿は見せたくない。」

結論は上手に飲むしかありません。

医学的に正しい知識があれば、
ダメージを最小限に抑え、翌日もきちんと動けるかっこいい大人でいることができます。

そのために、以下のポイントだけは必ず押さえてください。


■ 飲酒時の医学的対策(上手に飲むための3原則)

脱水対策 —— アルコールは強力な利尿剤です

飲酒中はこまめな水分補給を心がけてください。

脱水は睡眠をさらに悪化させるため、
飲酒量=水分量 を目安に摂取してください。


② 適度な炭水化物 —— 身体が求めるのは生理的反応です

アルコールは糖新生を抑制し、低血糖になりやすくなります。
そのため、炭水化物を欲するのは 正常な身体の反応です。

・おにぎり半分
・雑炊
・うどん
・軽い麺類

これらを代謝サポートとして摂るのは非常に理にかなっています。


③ 飲む時間帯と飲み終えるタイミングが睡眠を左右します

就寝の少なくとも3時間前までに飲み終えることが望ましいです。

逆に、寝る直前まで飲むのは 翌朝のパフォーマンスを捨てる飲み方 です。


■ 最後に(医師としてのまとめ)

仲間と飲酒、ビジネスで飲酒、色々なシチュエーションがありますが、
楽しい飲酒と良い睡眠を両立するには正しい知識を土台に戦略的に飲むこと が大切です。


■ 参考コラム

「人はなぜ眠るのか?睡眠の役割と2つの調節メカニズム」
「ヒトは一日何時間眠ればよいのか」
「概日リズム睡眠障害とは?体内時計がずれる原因と6つのタイプ」
「睡眠の悩みはどの科を受診する?睡眠専門医の探し方」
「夢はなぜ見るのか?  睡眠中に起こる脳の働き」
・「昼寝は何分がベスト? 研究データから見る最適な昼寝時間
・「研究データから見る寝不足とパフォーマンス低下


■ 参考文献

・「今さら聞けない 睡眠の超基本 (今さら聞けない超基本シリーズ)  電子書籍版
・「イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める!睡眠のしくみ  (単行本)

【執筆】
星野哲朗
日本睡眠学会 指導医・総合専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
ブログに戻る